R/C カーのはんだ付け

最終更新日: 2024年2月29日

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この記事では、私のはんだ付けの方法やツールと、それらの選択理由や基礎知識等について書きます。

はんだ付けで使うツール類

Sn63/Pb37 のはんだ

R/C カーの制作では Sn-Pb (錫と鉛) の割合が 63-37 のはんだを使います。

63-37 のはんだは「共晶はんだ」といいます。共晶はんだは、融点が 183°C と低く、またはんだの広がり (濡れ性) もよく扱いやすく、錫の割合が多いので光沢があり見た目にも美しいなど、利点の多いはんだです。

63-37 以外のはんだでは、融点が高くなる上に、液相と固相の間に半溶融状態 (要はドロドロ) の状態があります。例えば 50-50 のはんだは、183°C で半溶融の状態になりますが、液体になるには 約225°C に熱する必要があります。 半溶融状態のはんだは撚り線への浸透性が悪く、扱いにくいといえます。63-37 のはんだは、183°C という低温で固体から液体へ直ちに変わるので扱いやすい、というわけです。

はんだは、当然ながらフラックス入りのはんだを使います。

フラックスは金属の表面の酸化膜 (ひらたく言えばサビ) を除去します。フラックスはロジン (Rosin) から成りますが、これは松ヤニの主成分です。ですから、「脂 (ヤニ) 入り」「ロジン入り」あるいは英語表記なら「RA (Rosin Activated)」などと記載されているものが、フラックス入りということになります。酸化膜の除去ははんだ付け作業で必須の作業なので、普通の糸はんだはフラックス入りですが、入っていないものもありますので、念のため確認した方がよいでしょう。

糸はんだの太さは 0.8mm (0.032") から 1.3mm (0.05")程度のものを使います。

これ以上太すぎると、はんだがのり過ぎてしまい、接合部が「はんだ付け」ならぬ「はんだ漬け」の状態になりがちです。

はんだは高いもの、安いもの、良いもの悪いもの、いろいろです。見た目では判断できないので、信頼のおけるメーカーのものを使うことに注意します。

アメリカで容易に入手できるものでは、MG ChemicalsKester の評判が良いです。私は MG Chemicals を使用しています。

温度調整付きのはんだごて・ステーション

Hakko FX888D

はんだ付け作業を行うには、はんだごてのみならず、はんだごてを置くホルダー、こて先のクリーナーなど、いくつか必要になります。

こうしたツール類はまとめて、「はんだごてステーション」としてセットで販売されています。はんだ付けのツールを揃える際には、こうしたステーションで揃えるのが良いです。

よく「初心者にはこれで十分」などと、安い、簡易的なツールを勧めている状況を見かけることがあります。私は全く逆だと考えています。良いツールを使うのは、作業をより良く簡単に行うためです。 簡易的なツールで良い作業をするのは大変難しい。良いツールを使うことで、簡単にいい作業ができるのです。無駄に所有欲のために良いツールにお金を払っているわけではないのです。

詳しくは後述しますが、はんだ付け作業はこて先の温度管理が非常に重要です。このため、温度設定が可能なはんだごてを使います。

簡易のはんだごてでは、出力が何ワットなどという出力表示のみになります。こて先の温度はわかりません。出力の大きいタイプであれば、確かに高温になるのではんだは溶けます。はんだが簡単に溶けるので、高出力のはんだごてで作業すると、さもはんだ付け作業が簡単、とても良い、と思いがちです。しかし、はんだごてを高温にしすぎるのは良いことではなく、ちょうどいい温度で作業するのが良いのです。具体的には 350°C 以下で作業したいところです。 このため、単純な高出力のはんだごてではなく、温度調整が可能なはんだごてを使います。

高温が持続すればそれで良い、という言い方をする人が多いので注意しましょう。

私は他の温度調整付きのはんだごても試しましたが、結局、Hakko のはんだごてステーション (Hakko FX888D) を使っています。

RA フラックス

前述の通り糸はんだには、フラックスが入っているのですが、太いワイヤーにはんだを流したい場合などは、追加でフラックスを付けます。種類は基本的なロジンベースのフラックスペーストを使います。

はんだと同じで、フラックスの質も気をつけたいので、私は MG Chemicals の RA フラックスを使っています。

はんだ吸い取り線

はんだ付け作業をやり直す場合、あるいは、はんだが余分に乗ってしまった場合などは、はんだ吸取り線 (Solder Wick) を利用して余分なはんだを除去します。

はんだ吸取り線にはフラックスが染み込ませてあります。質の悪い吸い取り線は、フラックスの入っていない単なる銅線である場合がありますので注意します。また、はんだ吸取り線ははんだ除去対象部よりも、少し大きめのものを使います。

私は MG Chemicals #427 FINE BRAID SUPERWICK を使っています。

余分なはんだを除去する場合に、はんだを溶かして吹き飛ばしたりするのを見かけたことがありますが、そうするとはんだの微小な玉が飛び散ることになります。はんだが飛び散ることでショートを含む不良を発生させる可能性が高まります。また、はんだに含まれる鉛は体に有害ですから、はんだを飛び散らせることは避け、吸取り線を使いましょう。

錫めっき撚り銅線シリコンワイヤ

電動R/Cカーの制作において、はんだ付けが必要となる箇所は、ESCとモーターを繋ぐ箇所及びESCとバッテリーを繋ぐ箇所の二つです。

ここで使うワイヤーについては、錫めっきされた撚り銅線のシリコンワイヤを使います。英語では Tinned Copper Stranded Wire with Silicone insulation のように書きます。 Tinned は「錫めっきの」、Copper は「銅」、Stranded Wire は「撚り線」、Silicone Insulation は「シリコン被覆」のことです。

錫めっきされたワイヤを使うのは、はんだの濡れ性を高めるだけでなく、腐食を防ぐためでもあり、利点が多いものです。線が銅色ではなく、銀色になっているものは通常錫めっきです。(錫めっきではなく、銀めっきの場合もありますが、銀めっきは使いません。)

私はワイヤーの太さは、1/10 スケールカーには主に 13AWG、1/8 スケールでは主に 12AWG のワイヤーを使用しています。

接着剤付きヒートシュリンクチューブ

ヒートシュリンクチューブは、3:1 または 4:1 に収縮する接着剤付きのヒートシュリンクチューブ (3:1 または 4:1 Ratio Adhesive Lined Heat Shrink Tube) を使います。

ホットグルーはヒートシュリンクチューブを熱して収縮させるときに溶けて、加熱を止めると固まります。冷えて固まった接着剤はヒートシュリンクチューブを固定するのに役立つだけでなく、接合部の補強にも役立ちます。

ヒートガン

ヒートシュリンクチューブはヒートガンを用いて加熱します。私は Wagner HT400 を使っています。

はんだ付け作業用吸煙器

はんだ付けのときには、フラックスによって煙がでます。煙をなるべく吸わないように、吸煙器 (Fume Extractor) を使います。

$50 以下で選べますので、適当に評判の良さそうなものを選ぶので十分だと思います。

はんだ付け作業

はんだ付け作業のポイント

はんだの結合部の強度を確保するには、はんだを 250°C (482°F) 程度の温度で 3 秒程度熱するのが良いとされています。

注意する点は、「3秒程度熱してはんだ付けする」という点です。これは「短い時間で作業する」という意味ではありません。あくまでも「3秒くらいの時間をかけて作業する」ということです。 なぜなら、はんだは錫と銅の合金層を形成することで接合する仕組みであるため、数秒熱することで合金層が適切な量形成されて機械的強度が高まるのです。

この理由で、一瞬でパッとはんだを溶かして、ワイヤを埋め込んで固めてはんだ付け作業を終わらせる、というやりかたは、良い方法とはいえません。

はんだごての温度設定

接合部を 250°C にして、なおかつ数秒以内ではんだ付け作業を完了するには、こて先の温度はそこから、少なくとも 50°C 程度は高い温度で作業する必要があります。少なくとも 300°C 以上の温度は必要です。

また、はんだごてのこて先は 360°C 以上で酸化が進み、はんだの広がり (濡れ性) が低くなります。したがって、360°C にはならないように注意が必要です。

以上から、はんだ付けの際には、こて先の温度を 340°C (644°F) に設定します。

また、フラックスは低温では活性化せず (すなわち酸化膜を除去できず)、あまりに高温では分解されたり、飛び散ることでフラックスの効果が低まります。340°C 程度であれば、フラックスの効果は 4~5 秒は維持されると言われているので、はんだ付けの作業に十分です。

こて先の色や、はんだ付けの仕上がりの光沢具合から、温度が高すぎる、低すぎると判断する方法もあるようです。しかし、そうした方法は経験・熟練を要します。 結局のところ、温度設定可能なはんだごてを使うのが便利です。

こて先の選択

はんだごてのこて先は、細いと熱を伝えにくく、こて先の温度も下がりやすく使いにくいものです。

はんだの接合部とはんだごてのこて先が、なるべく多く接触するように、こて先を選びます。例えば、バッテリーの Bullet プラグとワイヤーをはんだ付けするなら、マイナスドライバーのような平べったいこて先が適しています。

フラックスの利用

フラックスは金属表面の酸化膜を除去し、はんだ付けを可能とする、という点で必須のものです。しかし同時に、フラックスが残留すると腐食の原因になります。このため、はんだ付けを行ったあとには、専用のクリーナーまたはアルコール (イソプロピルアルコール, IPA) で洗浄します。

腐食の原因になるという点でフラックスの利用は最小限度に抑えたいところです。すなわち、糸はんだに含まれるフラックスで済ませたいところです。しかし実践的には予備はんだの時には、端子やワイヤにわずかにフラックスを塗布して作業した方がスムーズに作業でき、問題も少ないと考えています。

以上、ここでは私のはんだ付け方法について、使っているツール、作業方法等に関して説明しました。

改訂履歴

1/3/23 初版公開
1/15/23 修正: Typo: 「個相」 → 「固相」
2/29/24 修正: ワイヤーの太さに関する記述を修正。
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